歯のはなし

歯の定期健診は平安時代からあった

古来の日本には、西洋で発達した歯科医学に優る予防歯科医学の考えがあり、それは「歯固め」の習慣にありました。

「歯固め」とは、平安時代より行われてきた風習で、正月に鏡餅(古代の円い神鏡に似せた)を神に供えた後、猪、鹿、押鮎、栗、瓜、大根など硬い物を噛んで歯の根を固め、長寿を祝う行事です。

『山の井』という古書に「人は歯をもって命とするゆえ、歯固めは齢を固める心なり」とあります。

また、6月1日を「氷の朔」といい、正月神棚に供えた鏡餅を水餅として保存して食べました。これを食べると無病息災、歯を病まないと伝えられています。(現在、6月1日はチューインガムの日になっています。)

現代の予防歯科医学的に言えば、お正月と6月1日の年2回、歯周疾患と噛み合わせの定期健診を行っていたということです。それも、日本中どこでもいっせいに行われた集団健診といえます。その上、餅の効用として、歯肉への適度な刺激と程よいマッサージ効果だけではなく、積極的な「顎の成長を促す働き」があり、口の中でモグモグする行為が、摂食・嚥下のトレーニング効果も発揮したと考えられます。

このように平安の昔から我々の身近なところで歯の定期健診と口腔の育成を行い、長寿を感謝する心があったということです。

ところが、平安時代の長寿は50年にも満たないでしょうか…、信長の時代では50年といわれています。今日では日本人の平均寿命も80歳となりました。加齢で多少の歯肉の退縮や摩耗、咬耗が生じることはありますが、老化で歯を失うことはありません。国民の歯に対する誤った対応が歯の喪失を生じ、歯科医師の「歯を守る」という専門集団としての勉強不足が、80歳にして残存歯数7~8本という結果を招いてしまいました。

それでも歯の健康には歯科医師の支援が必要です。歯と一生付き合うためにも良きパートナーとして賢く付き合って下さい。